もっと、五感を。

日置武晴サンという写真家がいます。「おおっ!」っと表紙の写真に目が留まり、手に取る本が偶然(というか後々考えれば必然)、かたっぱしからこの人の撮った写真だったってことが重なり、今じゃ、タイトル名より著者名より写真家名で検索して本を購入するという始末。その被写体のほとんどが食材などのいわゆるモノで、人物ってあまり見たことがない。幸運なことにそのご本人を何度かご飯屋さんで見かけたけど、ほんわかして、お酒と美味しいもの好きそうな、温かい感じ(!)の方でした。やっぱり人柄って作品に出るんだな。というわけで結構、持ってる日置シリーズ、その中でも今回読むのは私にとって初めての著者。

買えない味

買えない味


なかなか興味引かれるタイトル。ずばり、アタリ!でした。好き系、好き系。
今ってなるほど、お金さえ払えば、なんでも手に入る。国内外含め、お取り寄せってなんにも特別なことじゃなくなっちゃったしね。お家のリビングから出ずにして、九州の玄界灘の河豚も、イタリアのなんとか村の生ハムも食べられる。
でも、こんな便利な世の中だけど、売ってない味って、じつは、あるんですよね。例のごとく、またあとがきから読んじゃった私、こんな一文から、「この本、アタリ!」のいい予感がした。
「買えない味。そのおいしさは日常の中にある。毎日の台所の中にただおいしいのひとことではすませられないような味が数限りなく潜んでいるとすれば、これはうかうかしていられない。買いに行くのも食べに行くのも好きだが、自分のすぐ身の回り、これも譲れない。なにしろ味と言うものは、さもないキャベツ炒めや醤油一滴、または酸っぱくなった白菜の漬物にさえさまざまに宿っているから油断はできないのである。」
感性はすごくモダン、で、文体はちょっと昔っぽい。
プロに向かって身の程知らずだけど、こんなふうな文章、書けたらどんなに素敵だろう。
食べ物だけじゃなくて、使ってこそ命吹き込まれるモノたちについても書かれていて、特に着物好き、器好きにはたまらない内容。
漆器の話、なんて好きだな。ある日、ふと漆の椀から下の木目がうっすらしてる美しさ。それを漆からの贈り物っていう表現のしかた。もっともっと五感を養いたいな、と思わせてくれる本。ああ、そんなふうに生活したいな、と。
沖縄や韓国の食文化にも精通している著者。私の本棚、これから、平松シリーズ、増えそうです。